歯とそれを支えている組織(歯周組織)は、どのような役割を果たしているのでしょうか。

目次

(1)咀嚼(そしゃく)

(2)嚥下(えんげ)

(3)異物の弁別(べんべつ)

(4)うまみ感覚

(5)発音

(6)道具

(7)武器

(8)食いしばり

(9)審美性(しんびせい)

(10)脳刺激

(11)愛情表現

(1)咀嚼(そしゃく)

切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯によって、食物に対する作用の様式が異なるとはいえ、咀嚼は歯の最大の役割であり、消化のための第一段階として不可欠の作用です。これには食塊の捕捉、食いちぎりも含めて考えるのがよいでしょう。

(2)嚥下(えんげ)

不思議に思われるかもしれませんが、嚥下動作をスタートさせるとき、大部分の人は上下の歯をしっかりと咬合させ、下あごの位置を安定させます。これは接触型の嚥下と呼ばれ、引き続く舌による嚥下動作を誘発するとともにその動作を助けます。

もちろん、歯の咬合接触無しの嚥下も可能ですが、液状食以外のものは、この非接触型の嚥下では飲み込みにくいものです。まして、歯が失われてしまうと嚥下動作が著しく困難となります。

(3)異物の弁別(べんべつ)

食事中、砂や石のようなものを噛んだ経験は、誰しもが持っていると思います。このとき、不快感と共に反射的に顎が開いて、再びそれより強く噛まないのが普通です。このように歯は嚥下してよいものとそうでないものとを識別し、後者を排除するための感覚を持っています。

(4)うまみ感覚

食物によっては、歯ごたえが何とも言えないうまみに繋がっています。例えば、漬物が挙げられ、この歯ごたえの良さのために食欲をそそられることも多いはずです。また、食品の硬さ、軟らかさ、粘度の程度を噛み分け、例えばラーメンの麺そのものの違いに対するうまみの差は歯で感得し、増幅させています。

(5)発音

発音に歯が関係していることは周知の事実であり、これは無歯顎の人、乳歯あるいは永久歯の前歯群を喪失している人の会話を見れば十分理解できるでしょう。

(6)道具

糸や紐を切る、布や真空パックの紙(正確には石油製品)を裂く、栓を抜く、両手で何かをしようとしているときに歯で物を把持する、管楽器を吹奏するなど、日常、無意識に歯を道具として用いることはきわめて多いのです。

(7)武器

動物のほとんどを見れば分かるように、本来、歯は敵に対する威嚇と噛みつきによる武器としての働きをします。人でも、幼少期あるいは時には女性にこれが有効(?)に利用されていることがあります。

(8)食いしばり

歯を食いしばって頑張るとか、悲しみに耐えるという言葉に代表されるように、食いしばりの動作は精神的にも、また肉体労働やスポーツにおいても大きな働きをしています。例えば、口を開いたままでは全身の力が十分に入りませんし、涙をこらえるとき、我慢をするとき、踏ん張るときなどには歯を強く咬み合せる必要があります。

(9)審美性(しんびせい)

顔の審美性に関して、歯の持つ意味は大きいといえます。明るい笑顔や口元にとって清潔な歯と美しい歯列はきわめて重要な要素です。反面、良くない歯や歯列は審美的にマイナス効果をもたらすことは誰もが知っている通りです。

(10)脳刺激

昔から、よく噛む子は脳の発達に良い刺激が加わると言われています。そのことは別としてもチューインガムを噛むことにより居眠り運転が防げるという事実があります。

(11)愛情表現

親子の情愛を表現する一方法として、軽く噛んだりすることがあります。飼い犬や他の動物でさえ、飼い主に対してはこの手段をとります。この噛みつきの程度が情愛の表現として相応しいのかどうかは、歯根膜の感覚で判断し、調節しているのです。