歯が健康であるということの本質は、歯がその機能役割をもっとも効果的に果たせるということと同時に、歯の長寿が保たれるということでなくてはなりません。
一般的に歯と歯周組織は、一歯だけでは各種の機能負担に耐えられなくなり、それだけ短命となります。
そのために歯は、歯列を形成し、互いに負担を軽減し合おうとしています。
したがって、隣接歯との正しい接触関係を保つことにより、初めて隣接歯から更に遠くの歯にまでそれぞれの歯の機能負担を伝播分散することが可能となります。
これでどれほど、隣接歯との正しい接触点の保持が必要であるかが理解できるでしょう。
ところが、歯の健康を保つうえからは、機能負担がゼロかそれに近いということでは困るのです。
機能に参加できない歯は、歯根が吸収したり、歯槽骨が退縮したりするという事実がしばしば見られます。
すなわち、歯と歯周組織は自分が果たす機能によって生じる適切な刺激を自分自身で受け止めてこそ、健康を存続できるのだということです。
「健康のために適切な運動をしよう」という標語は歯にも当てはまることなのです。
■歯列と咬合(こうごう)
良い歯列(歯並び)とはどういうことなのでしょうか。
それは歯が整然と並んでいるという見かけ上の問題だけではないのです。
さきにも少し触れたように歯には機能荷重が加わります。
それは単に、咀嚼による荷重だけではありません。
舌、口唇、頬も絶えずといってよほどに、大なり小なりの荷重を歯に加えています。
これらに対して、歯は歯列を形成し、互いに守りあって生きているのですが、それらの歯があごの骨からあまり大きくズレて植立すると荷重の骨への伝播分散がうまく果たせなくなります。
したがって、歯列はその個人のあごの骨の形(顎弓)と調和しうる配列形態をとることが肝要です。
一方、歯はその隣接歯と互いに押し合って強く接触しようとする性質(歯間接触力)があり、これによって歯列の内側からの力(舌)と外側からの力(口唇、頬)などに対抗して、どの歯も歯列からはみ出ることがないようにとスクラムが組まれます。
このとき、もし接触点が、ある歯にとって良くない位置にずれていると、そこがウィークポイントになり、歯列の乱れがその歯から始まることになり、その部分に不潔領域をつくりやすくなります。
良い歯列とは、咀嚼など色々の機能が効率よく果たせる並び方をしているとともに機能時、非機能時の各種の荷重と歯の沈着物の付着に対して、十分な守りを形成しているものを指していうのです。
もちろん、これには上下の歯列の咬合のあり方が大きく関与していますので、個々の歯は好ましくない方向からの咬合荷重が加わりにくい状態に植立していなくてはなりません。
それが上下の歯(歯根)の植立方向の調和なのです。
ということは上下の歯列弓の形態的調和と、適正な配置関係も当然必要となります。
上下の歯列弓間に前後左右の「ズレ」(出っ歯、受け口、交叉咬合)があってはならないということです。
そのうえ、既述通り、咬合に参加できない歯があってもいけないのです。
このような厳しい条件を満足して初めて、歯は健康、長寿が約束されるでしょうし、本当にその役割が達成できることになるといえましょう。